今日考えたこと

得た知識や考えたことのメモをとるのが主目的です

数十年前に読んだ時の読後感とは違って、地味な出来事の連続による構成を好ましく感じ、話の流れに破綻の無い緻密な文章で構成された名作だと思った。一部で批判があると聞く、禅寺に修行に入るエピソードに唐突な感じは受けなかった。起承転結の落差が小さいため物語としての魅力には欠けるかもしれない。

それはさておき、この作品の連載が終了した月に、漱石は胃を悪くして何回かの入院を繰り返したらしい。おそらく、虞美人草、抗夫、三四郎、それから、門 と書き続けてきた著者には過大な精神的負担がかかっていたのではないのか、と想像された。直近の「それから」と「門」をあのような緻密な文体で執筆するのに、大きな負担がかかったのではないかと思われてならない。そのせいか、「門」の後のブランクを経て執筆再開した「彼岸過迄」の文体は、人物から距離を置いた、余白の多い、例えば「三四郎」に近い文体で書かれているように感じられる。

昨年12月に、ふと思い立って「彼岸過迄」を読み直し、次いで「坊ちゃん」「三四郎」「草枕」「虞美人草」「二百十日」「野分」「それから」「門」という順序で読んでみたが、「草枕」と「三四郎」が秀作であるという以前からの評価に、揺らぎは起きなかった。